『宮沢賢治と天然石』
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◆『宮沢賢治と天然石』は3年ぶりの新著、天然石をテーマにした本では7冊目になります。今回は全部が天然石テーマということではなく、宮沢賢治の人生を掘りさげ、併せて彼が作品中で天然石をどのように扱ったかについてまとめました。これまでの本作りに比べて2倍ほどの時間がかかっています。そのぶん天然石ファンの皆様には興味を深めてもらえる内容となっています。
◆「銀河鉄道の夜」や「雨ニモマケズ」「風の又三郎」の作者として知られている宮沢賢治は、鉱物や地質学の専門教育を受けた民間の科学者で、短い期間、農村指導者として過ごしました。80年ほど前に現代的なフリースクールを創設したことでも有名です。
◆賢治は霊視できる、幻臭を嗅ぐなど、生来のシャーマン的気質のゆえに、容易に意識を変性させて向こう側へと行ってしまえる人でした。日常的な視覚を越えることで開けてくる世界を〈心象スケッチ〉とよび、幻想的で透きとおった詩や物語を残しました。
◆『宮沢賢治と天然石』の第一部では、シャーマン的な気質ゆえに生きることに難儀したこちら側での賢治の生涯を追いました。
◆第二部ではシャーマン的気質と変性意識との関係を分析し、〈心象スケッチ〉は特異なものではなく、私たちも体験できることを検討しました。意識を変容させて賢治風の「行ってしまった景色」に遊ぶためのメソッドが付いています。
◆第三部では、賢治と天然石に的をしぼり、彼が天然石をどのように眺めていたかを特集しました。蛋白石(オパール)・琥珀(アンバー)・玉髄(カルセドニー)・瑠璃(ラピスラズリ)・土耳古玉(ターコイス)など、賢治作品中の使用例をひいて、賢治と天然石の関係を解説しました。
◆全体としてはポスト・ニューエイジの賢治論とでもいった味わい。「これまで誰も試みたことのない〈心象スケッチ〉の21世紀的解釈」となっています。
[1]宮沢賢治の作品に登場する天然石(鉱物)
賢治は夕方の空を契機にすっぽりと琥珀のなかに入っていけた
銀河の河原には両側が尖った水晶がいっぱい落ちている
角のあるサファイアはこんなふう。たぶん賢治関係の書物では初お目見え
くしゃくしゃの褶曲をあらわした石は蛇紋岩と同じように地殻の底から昇ってくる
◆「河原の礫(こいし)は、みんなすきとおって、たしかに水晶や黄玉や、またくしゃくしゃの褶曲(しゅうきょく)をあらわしたのや、また稜(かど)から霧のような青白い光をだす鋼玉(こうぎょく)やらでした。ジョバンニは、走ってその渚に行って、水に手をひたしました。けれどもあやしいその銀河の水は、水素よりももっと透きとおっていたのです。(「銀河鉄道の夜」から)
というように賢治は作品中にたくさんの天然石を登場させています。おもなリストは以下のようになります。詳しくは『宮沢賢治と天然石』を参照してください。
[01]琥珀
[02]水晶(DT)、アメシスト、シトリン、スモーキークォーツ
[03]カルセドニー、メノウ
[04]オパール
[05]ターコイス、ラピスラズリ
[06]アマゾナイト、クリソコラ、マラカイト
[07]セレスタイト
[08]アクチノライト、ネフライト、翡翠、エピドート
[09]ダイアモンド、ルビー、サファイア、コランダム、エメラルド、ベリル
[10]ムーンストーン
[11]カルサイト
[12]ロードナイト
[13]クロシドライト、サーペンチン(蛇紋石)
[14]硫黄、水銀、辰砂
[15]恐竜化石
[2]表紙と裏表紙の写真について
「愛の店」と読めるソーラークォーツ
タイタニック号と氷山が描かれているかのように見える天然のメノウ
◆『宮沢賢治と天然石』の表紙の写真は花巻農学校の教師時代、28歳の宮沢賢治。『心象スケッチ・春と修羅』と童話集『注文の多い料理店』を出版したころで、作家として覇気と野望に満ちていた時期でした。鹿皮の陣羽織を仕立てなおした上着を着ていて、坊主頭や写真の雰囲気からはうかがいにくいのですが、けっこうお洒落な人だったようです。
◆裏表紙の石の写真は、自然のいたずらで1点は「愛の店」とも「愛の石」とも読めるソーラークォーツ。メノウを核に鍾乳石状に発達した水晶を輪切りにしたものです。世界ぜんたいの幸せを願った賢治に似つかわしいと思います。
◆他の一点は切断したメノウに現われた天然の模様で、「見立て」の力を使うと氷山を背景に船が浮かんでいるように見えます。賢治の代表作「銀河鉄道の夜」にはタイタニック号の遭難事件で犠牲となった若者と彼に連れられた幼い姉弟が登場します。他者の救済のために自分を犠牲にする、この事件に賢治はいたく感動したようです。
◆2点の鉱物の写真は石好きだった賢治が驚くようにと選んであります。偶然にもこれらの石をここで紹介できるようになったのは不思議といえば不思議なことです。
